6月 19, 2010

ボートの三人男


ちょっと前に「ビッグイシュー」で紹介されていた本を読んでみた。『ボートの三人男』という小説。200年以上も前に書かれたイギリスの小説。それが世界中でずっと愛され続け、このたび中公文庫から新装発売された。

題名を見て、まずピンと来たのは、イギリスの伝承詩(マザーグース)の中によく出てくる「3人の男がボートに乗って」(上の2つの歌、"Rub-a-dub-dub","Three wise men of Gotham" もそう)というモチーフ。何か象徴的な重要なモチーフなのだろうか。

小説の内容は、いたってばかばかしい。何をやっても上手くいかない、情けない3人の男のボート遊びの話。「くすっ」と笑える話が満載。電車の中で何度も笑ってしまった。訳者(丸谷才一)の訳もすごくいいので、原作のユーモアが、おそらくちゃんと訳出されていると思う。何ともいえずユーモラス。

でも、読み進むうちに、作者(ジェローム・K・ジェローム)は、もしかすると、ものすごいロマンチストなんじゃないかと思えてくる。というのは、たまに急に真面目に風景を描写したりするのだけれども、その描写がうっとりするほど美しいのだ。でも、それはほんの一瞬で、始終アホなエピソードの紹介に専念している。限りなく照れ屋なのだろう。

その、まれに出てくる美しい一節には次のようなものがある。

「明るい夜である。月は沈んでしまい、静かな大地を星たちにと委ねている。あたかも、大地の子たちであるわれわれが眠っているとき、沈黙と静寂のなかで、星たちがその姉である大地と語りかわしているようだ。あまりにも大きくあまりにも低いため、子供っぽい人間の耳には捉えることのできない声で、大いなる神秘について語っているようだ。

このように冷たくこのように明るい星たちは、われわれを畏怖せしめる。そのときわれわれは、ほの暗い神殿...礼拝することを教えられてはいるがその神体が何であるかは知らないほの暗い神殿...へと迷いこんだ小さな子供たちなのである。」

子供の頃、これとまったく同じ気持ちになったことがある。小学校高学年の頃、家族で山へ行ったとき、ひとりだけ早朝に目覚めてテントの外へ出てみたのだ。まだ薄暗い朝、空と地面とが語り合っているような音を出していた。私は、聞いてはいけない会話を聞いてしまった気がしてドキドキした。天と地は、人間には分からない言葉で、何かとても重要なことを話し合っていたように思えた。

私はジェロームのこの一節を読んで、宗教心のようなものが自分と共通していると思った。遠い国の、遠い昔の人だけど。

なんか小学生の読書感想文のようになってしまった。

追記:それと、小説の中に、Pig & Whistle という名前の宿屋が出てくる。神戸・大阪・京都に同じ名前のイギリス風パブがあるのだけれど、何か関係あるのかな?これも由来はマザーグースかな?誰かご存知ないでしょうか?

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