6月 27, 2010

おにぎりの力

心のこもった手料理を一緒に食べる。ただそれだけで自殺まで考えていた人が再び生きる力を取り戻して帰っていく。そういうすごいことをしている人がいるらしい。青森県、岩木山のふもとに「森のイスキア」という家を作って、生きることに疲れた人を受け入れ、寝場所や食事を提供している佐藤初女さんという女性だ。

この人の作るおにぎりは、それはそれは美味しいらしい。それは梅干を漬けるところから始まって、すべての過程に妥協のない手間ひまがかけて作られている。感動的なほどおいしいおにぎり。人は美味しいと感じることで生きる力を取り戻すという。「食べる」という一番基本的な行為を、ここまで深化させたのは、ご自身がそれによって蘇った経験があるからだろう。

彼女は若い頃、肺をわずらって17年ものあいだ大変な毎日を送っていたらしい。どんな医者にかかっても、どんな薬を飲んでも、本当に「治った」という感覚を得られなかった。でも、どうしようもなく弱ったある春先、旬の魚(桜鯛)を、旬の野菜(蕗)と一緒に煮たものを食べたとき、体のすみずみにまで力が伝わっていくように感じたという。

以来、食べることで治ってきたという。人にも旬の食材で心をこめた手料理を提供しつづけてきた。特に極めておられるのが、おにぎり。空腹時に食べるおにぎりというのは、たしかに魂レベルでの感動をもたらす。ごはんだけでも十分に感動的だが、それをさらに誰かが「おにぎり」に握ってくれたら、体だけでなく心にまで深く染み入る。

もちろん、自殺まで考えているような人は、最初から食べられるわけではないらしい。何かがいっぱいいっぱいに詰まっていて、とても食べられる状態ではないのだろう。最初はただ、心に寄り添うようにして一緒に居るだけ。それから、ぼちぼち話し始める。それをそのまま受け入れながら聞いていると、そのうちその人に食べる余地が生まれてくる。そうして初めて食べ始める。食べ始めると、おいしいという感覚を抱くこともできる。そうなれば、あとは自然の仕事だ。

ものすごく基本的なことなのだが、なかなかできないことだと思う。

(日本-デンマーク戦の前日の夕焼け。月が上って幻想的だった。)

2 件のコメント:

  1. 素敵な写真ですね!すごく景色の良いところに住んでいらっしゃるんですねー

    そして青森に、そんな人がいるんですね。
    なんというか、色々不安定な世の中で「疲れた人」がますます増えそうだなあと心配します。

    満たされていると(そして母親である限り、強くならざるを得ませんしね・苦笑)忘れそうになりますが、どういうときに心って疲れるだろうかと。

    寄り添ってご飯をたべるだけで救われる人がいる、ということ、、心に留めておきたいです。

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  2. いい景色でしょう!ここを借りた一番の理由です。この景色を誰よりも一番よく眺めているのはタマジです。

    佐藤初女さんのこと、中さんもしかして知ってるかと思っていました。青森出身だし、カトリック系の高校出身だし。

    初女さんのやっていることは、実は昔からお母さんやお祖母さん達が普通にやってきたことなのかもしれませんね。

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